平塚美術館「川瀬巴水展」13日までです

平塚美術館 開館30周年記念 荒井寿一コレクション 川瀬巴水展 2021年4月24日(土)~6月13日(日)

大正から昭和にかけて風景版画を数多く制作した川瀬巴水(かわせ・はすい)の展覧会を見てきました。
抒情あふれる風景版画や、本の装丁、雑誌の表紙・挿絵・口絵、絵ハガキなどのグラフィックデザインなど。
すべて平塚市内の商事会社の代表を務める荒井寿一コレクションによるものです。

鏑木清方門下ながら伊東深水や名取春仙と比べその他大勢という扱いだった川瀬巴水
国内より海外で注目されていたそうで、
スティーブ・ジョブズが収集していたことで知られています。

荒井さんは、20年前 、ロンドンの骨董店で巴水作品に出会い購入、
収集を始めたそうです。

川瀬巴水(かわせ・はすい、東京生、1883-1957)は、大正から昭和にかけて風景版画を数多く制作した版画家です。
幼少より絵に関心を寄せて十代で断続的に日本画を学びますが、
家業を継ぐべき長男であったことから本格的に画業に身を投じることができませんでした。
転機が訪れた20代半ばから葵橋洋画研究所での学習を経て、27歳で鏑木清方に師事し、
ようやく画家として歩み始めました。

大正時代前半の巴水は、清方の弟子として雑誌の挿絵や口絵、広告図案などの仕事をし、「版」による制作に親しみました。
やがて同門の伊東深水が制作した風景版画《近江八景》の連作に影響を受けて木版画制作をこころざし、
版元・渡邊庄三郎と協力して、大正7(1918)年に塩原の写生にもとづく三部作を発表します。
以後、約40年にわたって日本各地を写生旅行し、その地に暮らす人々の生活や四季折々の風景をもとに、
詩情あふれる作品を数多く生み出しました。」

平塚美術館HPより


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旅みやげ第二集 「金沢下本多町」1921

江戸後期の浮世絵師 歌川広重(1797-1858)より、ずっとモダンでオシャレです。
100年も後だからでしょうか?華やかでクールで、衝撃的です!
この大きな影の表現はヴァロットンのよう!

スイスの画家で、グラフィックアーティストであり、
現代木版画発展期の重要な人物であるヴァロットン( 1865-1925)の作品のようだと思いました。
浮世絵の大々的な展覧会が開かれたのは、1890年 エコール・デ・ボザールにて。
ヴァロットンも浮世絵をコレクションしていたといいます。
そして1890年代にナビ派に参加しています。

巴水の作品はナビ派っぽい・・・。
ナビ派が浮世絵の影響を受けているのだから、共通性はあるのかも。
巴水はナビ派を見たことがあったのかしら?

版画には絵師、版元 、彫師 、摺師がいます。
版元である渡邊庄三郎に興味が湧いてきました。

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「元箱根見南山荘風景」1935
こちらもヴァロットンの油彩のようではないでしょうか?
これは現在の「山のホテル」です。有名なツツジが刺繍のように立体的に、盛り上がって見えます。版画なのに。

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渡邊庄三郎について、いろいろ調べる中で、アート・ストームズさんの記事を興味深く読ませていただきました。

渡邊庄三郎は、1918年、風景画会員頒布会で巴水の作品に出会い、
その作風から木版画になりそうだと直感したそう。北斎や広重の古版画に飽きてきていた時代だったそうです。
そして、新たな芸術的な版画を作成。
庄三郎の美意識と版画研究の成果として「新版画」は確立され、これは海外でとても人気になったそうです。

新版画には江戸時代の浮世絵とは異なる版画手法が採用されているのだそう。
色に深みを持たせるための下刷りをする、バレンによる摺った傷跡を残す、そして色数の多さが違うということ。
北斎『赤富士』7色 、広重の最も色数の多い作品で『日本橋通り一丁目略図』33色
なんと江戸時代の浮世絵の大作と並ぶ30色を、巴水作品では平均的に使っているのでした!
詳しくは、アート・ストームズさんでご覧になってくださいね。

華やかさや、モダンさの理由の一つには、新版画ならではの手法が使われていた、ということがあるかもしれません。


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東京二十景 「芝増上寺」1925


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「鶴が岡八幡宮」1931
湘南美術アカデミーの展覧会場(7月予定)のアイザ鎌倉の近くです。

景色として眺めるだけではなく、
自分が八幡宮の前に立って陽ざしを感じているような体感を得られる作品だと思います。

人気絵師であった巴水は旅が好き日本中を旅し写生を残しました。
版画を見た人が、自分と同じように、その場にいるように感じてほしいとの思いを持って作品に残したということです。
巴水の願い通りに、どの作品も、その場の空気や光を感じることができます。

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東海道風景選集「馬入川」1931

荒井寿一氏の素晴らしいコレクションの数々が並ぶ貴重な機会です。ぜひぜひお出かけください。

湘南美術アカデミー