4月のある日、美術館からの郵便物の中に二科神奈川支部からの封筒を見つけました。
二科展、国展、新制作展、日展。
私にとって公募展とは見に行くものでした。
神奈川の二科展というものがある、そして会場は六本木ではなく横浜。
その頃私は目標をもってなにかに取り組みたいと考えていました。友人に京都芸術大学の通信講座に誘われ、とても大変そうだけれど頑張って「京都芸大卒業」しようかしら、と思ったりもしていたのです。
これまで考えたこともなかったけれど、目指してみようかしら、 神奈川県の二科展。
公募展サイズ(50号)なんて私にとっては、とんでもない大きさ。ところが二科展神奈川支部では、たくさんの人にぜひ大きな絵に挑戦してもらいたい、ということで、今回からS20を最小サイズとしたそうなのです。
ちなみにS20は72センチのスクエアです。私にとっては十分に大きい。けれど授業で使っている水彩用紙のサイズより少し大きいくらいかしらと思えるサイズ感でもありました。
先生と相談し、椅子に座るウクライナ人の女の子を描き始めていたこの用紙を、S20の板に貼り付けることにしました。
湘南美術アカデミーには人物デッサンのクラスがあります。6回の授業でモデルさんが3回来て、あとは写真を見て描きます。画材は水彩絵具とパステル。
公募展に出すのなら油絵にした方がいい、との指導者の提案により油絵にすることに。
油絵は絵葉書くらいの小さいものしか描いたことがない。でもここは 挑戦するしかないと思いました。目標を持って取り組むことが私のテーマなのだから。
モデルはウクライナ人の12歳の女の子。ウクライナの民族ダンスがとても上手です。ウクライナの女性は子どものころから学校の授業で民族ダンスやバレエを習うのだそうです。
大きな絵を描くのだから思いがある絵でないと伝わらない。ウクライナ、戦争、少女、夢、希望、バレエなどをキーワードに何かストーリーを描きたい。
椅子に座る少女の横の壁面に名画を掛けたいと思いました。絵の中にある絵、画中画がなぜか好きで心惹かれるのです。何の絵にしようかしら。ひと目で何の絵かわかるものがいい。そしてドガの「踊り子」にしたのです。
踊るのが大好き、バレリーナになりたい。でもそんな夢は叶うのかしら?「ウクライナの少女の夢」というタイトルは、そんなふうに決めました。
人物と椅子はモチーフの形と色を大事にしていますが他は想像の世界。夢が広がります。床の材質を板にしようと決めたとき、カイユボットの「床削り」みたいなツヤ感を出したいと思いました。
私の油絵の指導者は彫刻家です。指導に沿って塗っているととにかく厚くなります。
とくに厚塗りなのは カーテンと人物。顔はレリーフのように盛り上げました。モデリングペーストや石膏も使っています。
2ヶ月ほどで、やっと完成!ゴールドの仮縁をつけると、ちょっと素敵に見えました。
搬出直前まで、もっと立体的に、と指導が入り、どんどん厚塗りに。乾くのかしらと不安がいっぱいでしたが超速乾剤のおかげで、搬出当日には無事に乾いていてほっとしました。
家族や友人が 見に来てくれて「厚塗りが面白い」と感想をくれました。
ありがとう。見てくれただけで嬉しいです!
ともかく描いて二科展に出せたことは奇跡的。途中で、本当に出来上がるのか?と何度思ったことか。
見ているだけではなく描いてみる。そして公募展に出してみる。大きなサイズの油絵を描いてみたら、他の人の作品を見る目が変化(進化?)し、さらに絵画鑑賞が楽しくなっていました。苦労した以上の多くのものを得ることができ挑戦してよかったと思える初めての公募展でした。