「かくかくしかじか」

漫画家 東村アキ子さんの自伝的作品。高校時代に美大受験のために通った美術教室の先生である日高先生との思い出がベースです。

ブルーピリオドに続いての美大卒の漫画家さんの美大受験の映画。美大生の青春映画、だと思っていました。

 

けれどここに綴られているのは、苦しく辛い受験の記憶でもなく、キラキラした美大時代の思い出でもない。

恩師の思いに応えられなかった、応えようとしなかった後悔。

先生の思いは分かっていたけれど、ほかに優先したいことがあった。でも大人になればなるほど、より深く先生の気持が分かるようになっていく。先生が死んでしまったから、作者はずっと解決できないその痛みを抱えている。それが強く伝わってくることで、共感できる映画でした。

 

宮崎の田舎の美術教室の先生である日高先生は受験生も教えているけれど美大は出ていない先生。竹刀片手に「描けー描けー」という大声がすごく怖いのです。今どきアウトですね。でもピュアな気持の大人だということは生徒には伝わっている。

 

美術教室の棚には石膏像や獣の骨やはく製や貝殻などの、おなじみのモチーフが並んでいます。金沢美術工芸大学でロケしているので美大の中を見ることもできます。

 

美術教室や金沢美術工芸大学のほかに私が見たかったのは東村アキ子さんが、おそらく日高先生のところで高校時代に描いたという石膏デッサンでした。

日高先生の愛情あるスパルタのおかげで、こういうデッサンが描けるようになったのですね。

「漫画家になりたい」って言えずにいた気持もわかりました。美大に入って画家になるという未来を真っ直ぐに思い描き信じている先生には言えない。

最初から目指しているところは、美大出身の漫画家、だったのにね。

生きているときに、会っておけばよかった、話しをしたかった、そんな後悔は悲しいけれど、持っていない大人はいない。

美術教室や美大、漫画家に興味がある人だけでなく、たくさんの人にオススメしたい映画でした。