鏑木清方記念美術館「鏑木清方と渡辺省亭 ―江戸画人の水脈―」展 10月19日まで

 にぎわう小町通りから、ちょっと脇に入ったところにある、鎌倉市鏑木清方記念美術館。
日本画の巨匠、鏑木清方作品の展示と、清方の画室や客間の床の間を見ることができます。

 

今回の展覧会では、2021年の東京芸術大学大学美術館の渡辺省亭展にも展示された『牡丹に蝶の図』(1893)も見ることができます。
垂らしこみの、ぽってりとしたピンクの牡丹が目をひき、
白い牡丹に留まった黒い蝶がアールヌーボーのブローチのようで、
日本画の中に西洋を感じるところが魅力的だと思うのです。

省亭を知ったのは、芸大の展覧会の少し前くらいだったと思います。
小原古邨も川瀬巴水もここ数年で知りました。
そういえば田村一村も、それほど前のことではありません。
新たな驚きと感動を与えてくれる、たくさんの画家にこれからも出会えると思うと、とても嬉しい気持ちになってきます。

今回の展覧会は、清方が省亭に寄せる思いから、清方の心のありようが感じられるものでした。

幕末に生まれた省亭は、16歳で歴史画の大家・菊池容斎に入門。独立後
28歳で起立工商会社の一員としてパリに渡った、日本画家として初めて渡欧した人なのです。
しばらくは展覧会にも出品していましたが、後半生は画壇と距離を置き、下町の旦那衆などからの注文制作だけを手がけるようになりました。

清方は13歳で挿絵画家をこころざす前から、本や雑誌に載せられた省亭の口絵や挿絵に接し、その清新な画風に魅せられていました。一時省亭に花鳥画を学んだ水野年方に入門して研鑚を積み、やがて流麗な線描と情緒豊かな作風で挿絵画家、日本画家として名を馳せるようになります。
省亭の作品を蒐集して自宅の床の間に飾り、晩年まで省亭に私淑した清方は、鎌倉の清方邸に省亭の《向島雪景色》をかけていました。

『一生自分の描きたい絵を描いて厄介な社交を避け好きな微吟浅酌の趣味に活き、趣味生活を其のままの芸術を楽しんで終わつた先生の一生は、現代ばなれのした名人らしい生涯であつた。』(鏑木清方文集より)

華やかな画壇にいた大家である清方の、本当の心は、青年時代から私淑してきた省亭のような生き方だったようです。
大家という言葉がなじみすぎて、このような思いを持っていたことは意外でした。   

省亭の魅力を通して、清方の画家としての心のうちを思い、
清方の人間性にふれることができた気がして、たいへん充実した展覧会となりました。