横須賀美術館「ヒコーキと美術」展。「図案対象」全画面。4月11日までです。

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横須賀美術館で「ヒコーキと美術展」を見てきました。

飛行機という20世紀の一大発明が私たちに与えた影響について美術の視点から見ていく というものです。

それまでになかったスピードや空中感覚を経験させる飛行機は人々のビジョンに変化を与えました。
また機械としての洗練された機能美は、新しい時代にふさわしい、モチーフとしての魅力に満ちたものです。
横須賀ならではの秋水とのコラボ展示もあり、戦争の悲惨さと切り離せない展覧会でもありましたが、
飛行への驚きと憧れのあった時代の作品約50点から、
画家の目を通した「飛行機」「飛行」が新鮮に感じる素晴らしい展覧会でした。

写真は川端龍子の大作です。

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左:久保克彦「図案対象」第三画面
右:中村研一

久保克彦は、戦没画学生として、素晴らしい作品を残しています。

東京美術学校工芸科図案部を首席で卒業。勅令によって卒業を半年繰り上げられて卒業と同時に軍隊へ入り、
太平洋戦争中、中国で戦死。

「図案対象」は、1942年に卒業制作として描かれたもので、その2年後に戦死。たったの25歳、、、
提出期限当日の朝完成(未完だそう)し、 首席作品として学校の買い上げとなった作品です。


「図案対象」は
透明感のある色彩の美しさ、構図、コラージュ、箔、霧吹きなどの技法を使用した全5枚、どれも、これまで見た絵画とは違う魅力を放っていました。
中央の第三画面を中心に絵のサイズが対称に構成されています。第三画面はエルンストが使ったフォトモンタージュ技法によるシュルレアリスムの作品ということ。
勢いを感じる血のしぶきが描かれていますが、色やデザインのせいかポップな感じがします。
この「図案対象」はグラフィックデザインの先駆的作品として高く評価されているのだそう。

身近に画家や俳人がいたという環境であり、少年時代から工作や飛行機が大好きで、
小学生の時には、モーターや風力を使った臼を作ったりしていたそう。
構造線が描かれた作品は、ダ・ヴィンチを彷彿とさせます。

久保克彦は作品の解説を残していなかったのですが、
その後、あらゆる角度から分析、解釈、照合、比較研究などの考察を重ねた結果、
一見バラバラに見える事物の配置は、全て「黄金比」の法則に従って、整然と並べられていたことが分かったのだそうです。
黄金比というのは、人間が最も美しいと感じる比率のことで、それは、1:1.618というもの。
ダ・ヴィンチモナリザ黄金比に基づいています。
古代ギリシャパルテノン神殿古代エジプトのピラミッド、パリの凱旋門、ガウディのサグラダファミリア大聖堂、ミロのビーナスも「黄金比」なのだそう。

ところで、戦没画学生という名称があるのですね。
なんて悲しい名称でしょうか。
戦没画学生の作品を集めた「無言館」という美術館が長野県にあるそうです。

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左:日本抽象美術の先駆者といわれた、恩地孝四郎
右:清水登之

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横須賀市の観光スポット、観音崎灯台

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眺めの良い観音崎のレストラン「マテリア」

かつて横須賀市追浜には、ライト兄弟が飛んだ9年後に作られた飛行場があったそうです。飛行機と関連の深い横須賀で、ヒコーキが私たちにもたらしたさまざまな光と影についてを、美術作品を通して考えるよい機会になりました。
4月11日までです。

湘南美術アカデミー