鵠沼海岸のシネコヤで上映中の『アートのお値段』。このたび、やっと見ることができました。
映画に登場するのは、アーティストやコレクター、オークショニア、ギャラリスト、評論家など。
熱気あふれるオークションのシーンから始まり、もうワクワクです!
前澤友作さんが所有しているジャン・ミシェル・バスキアの《Untitled》が落札される瞬間も出てきます。
ちなみにこの作品は、現在、六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーで開催される『バスキア展 メイド・イン・ジャパン』で展示されています。
ナサニエル・カーン監督が「そもそも、アートの価値ってなんだろう?」という疑問を美術界の有力者たちに投げかけながらアートとお金の関係を探っていく作品で、ラリー・プーンズ、ジェフ・クーンズ、エイミー・カペラッツォ、ステファン・エドリス、ジェリー・サルツ、ジョージ・コンド、ジデカ・アクーニーリ・クロスビー、マリリン・ミンター、ゲルハルト・リヒターらが出演しています。
《ラビット》が100億円で売却され、代表作《ゲイジングボール》で知られるジェフ・クーンズ。
ルイ・ヴィトンの定番のバッグがダ・ヴィンチのモナリザになっていますが、
ルイ・ヴィトンとクーンズのゲイジングボールの世界のコラボレーションだったのです。
ファッションブランドとアートの関係についても描かれています。
売れるものを作り出していく、クーンズや村上隆に対して、
ビジネスとして「再発見」されたラリー・プーンズという60年代に一世風靡した抽象画の画家が、
「売れるものを描くのではなく変化していきたい」など語りつつ、
林の中のアトリエでマイペースで製作する様子も印象的でした。
クーンズのアトリエのシーンに出てきたのは、ルネサンス時代のイタリア人画家であるティツィアーノの絵に「ゲイジング・ボール」をつけて、見る人を絵のなかに入り込ませるという仕掛けをした作品。クーンズはスタッフに色の順番、番号などすべてを細かく指示していることから、「自分の指に“こうしろ”と指示するのと同じで<私自身が描いているんですよ>」と述べます。
自分で描く・描かないことについて。複製とは何なのだろうか?ということについて考えさせられます。
コレクターのステファン・エドリスもクーンズ作品を所有するひとりで、有名なスチール彫刻作品の「ラビット」や、フランスの写実主義の巨匠であるギュスターヴ・クールベの《眠り》にゲイジング・ボールを組み込んだ作品などを披露し、
もう飾る壁がない、というようなことを述べていました。
そして映画の最後で、シカゴ美術館に、ウォーホル、クーンズ、村上、カテランなどを寄贈し、「孫がいないからね」と言うステファン・エドリス。なんて素敵なんでしょう。アートとコレクターの関係がみえる感動的なシーンでした。
巨匠たちが描いた作品が、90年代にどんどん美術館に入ってしまったそうです。
作品がなくなればオークションハウスが運営できなくなり、アート市場は縮小してしまう、ということですが、
オークションハウスのフィリップス会長兼最高経営責任者であるドルマン氏は、
「現代アートは今つくられている、無限に供給することができます」と述べるのです!
お金を使いたい人がいるから、ビジネスとして、どんどん供給しますよ、ということ。
作品が素晴らしいから高額でも買いたいとか、人気があって高額だからこそ何としても欲しいということだけではないことを知りました。
ナイジェリアの女性アーティスト、ジデカ・アクニーリ・クロスビーが
オークションで自身の作品が高騰する様子を見ながらコメントしています。高騰する現状とアーティストの思いとは。
「美術館は、まるで墓場」と述べるのは、サザビーズのオークショニアのカペラッツォ。
アーティスト、オークショニアの考え方の違い、リヒター、クーンズや、マリリン・ミンター、シデカ・アクニーリ・クロスビーなど新星アーティストたちの製作中の様子も楽しめ、
かつて作品を見て印象に残っていたウィレム・デ・クーニングの姿も初めて見ることもでき、とても満足できました。
アート、経済、経営、人生、人間模様など、さまざまな視点で味わえる映画です。
2019年現在、最も高額で取引された絵画は、2017年11月15日にニューヨークのクリスティーズで競売がかけられたレオナルド・ダ・ヴィンチの《サルバトール・ムンディ》(4億5000万ドル)。
《サルバトール・ムンディ》が映し出されて、映画は終了。
シネコヤでは20日までの上映です。
湘南美術アカデミー