『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(神田房江・法人教育コンサルタント、美術史学者)/ダイヤモンド社
「知覚力」とは、目の前の情報を受け入れ、独自の解釈を加えるプロセスのこと。
知覚は知的生産の最上流にあるもので、思考以前の力のこと。
どこに目を向けて何を感じるのか、感じとった事実をどう解釈するのか、すべては「知覚」で決まるのだそう。
ですから、優秀な論理的思考やコミュニケーション力があっても
「知覚力」が乏しければ、それらを生かすことができない可能性があるのだそうです。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、史上最高の画家であり、人類史上最も多彩な人物です。
ダ・ヴィンチの『手稿』には、知の巨人と言われるダ・ヴィンチが、
アートからサイエンスまでの幅広い分野に渡り、観たこと考えたことが素描やドローイングを交えて細かくメモされています。
『手稿』から、
ダ・ヴィンチは、知覚力を磨くために、
知識を増やす、他者の知覚を取り入れる、知覚の根拠を問う、見る/観る方法を変える
ことを実践していたことがわかります。
ダ・ヴィンチの見る方法は観察です。
ダ・ヴィンチの『手稿』からはダ・ヴィンチの視覚重視の痕跡が見えてきます。
「なぜある星は、ほかの星よりもキラキラしているのだろうか」
「なぜ眠っているときに見る夢の方が、起きて見る空想よりも鮮明なのだろうか」
対象を集中的に観察することで見えないものを観る力が高まってくるそうです。
脳で観る機能をマインドアイ(アイデアを観る眼)と呼び、そこで観られる像をメンタルイメージと呼ぶそうで、
観察は、機能を高めて知的生産力に繋げてくれるのだそうです。
様々な分野で優れた芸術作品を残し、ダ・ヴィンチと同じくルネサンス期の万能人とされるミケランジェロはこう述べています。
「羅針盤は手のなかにではなく、眼のなかに持ち続けるべきだ。
実行するのは手だが、判断するのは目なのだから」
湘南美術アカデミーの代表、彫刻家の三木勝先生も、デッサンの授業のときに、
よく、「手で描くのではなく目と頭で描く」と述べていますね。
知覚への最大の影響力を持っているのは視覚です。
本書では絵画を観察することで、眼と脳の能力を引き出すことで知覚力を磨くことを
「絵画観察トレーニング」として、紹介しています。
湘南美術アカデミーでも、おなじみの絵画作品などがトレーニングの例に出ていますよ。
観察力を試してみましょう。
なぜ絵画の観察が有効かというと、
・バイアスが介在しづらい(見慣れない絵を観るときには視覚的刺激を頼るしかない。ありのままを観察する感覚が掴みやすくなる。
・フレームで区切られている
・現実世界を観察するのは難しい。
・全体を見渡す力がつく
ビジネスにせよ人生にせよ、全体像ではなく全体図を観ることで、作品の特性や価値が浮かび上がってくる。
絵画観察を通して眼のつけどころを磨くことで知覚力が高まると知的生産のプロセスは加速するのです。
観ることによって知覚力を高めてきた人物の共通点は絵画を観るように世界を観ていること。
ダ・ヴィンチは、専門家から得られない知識は書物で補い、アート、天文学、医学人体解剖学、地質学、植物学、光学などなど、
知覚の領域を広げていました。
そして、ダ・ヴィンチの『手稿』を落札したビル・ゲイツやジェフ・ベソスなど、
世界の一流経営者は多様なジャンルの本をたくさん読んでいます。
ビルゲイツは「学習すればするほど知識をあてはめられるフレームが広がる」と知覚力向上を狙いながら本を読んでいたそう。
そしてノーベル賞受賞者の9割以上がアート愛好者ということです。
先の見えない時代と言われていたところ、さらにコロナに覆われて、
これからこの世界はどうなっていくのでしょうか?
混迷の時代において、思考の前提となる「知覚」を磨き、思考力を発揮することは、豊かに生きることにつながるでしょう。
ビジネス書ですが、知覚を磨くための名画の鑑賞方法というのは、美術ファンにとっても興味深いのではないでしょうか。