「ジェームズ・アンソール ―写実と幻想の系譜―」 11月10日

 損保ジャパン東郷青児美術館アントワープ王立美術館所蔵「ジェームズ・アンソール ―写実と幻想の系譜―」を見てきました。

この度初めて知った「ジェームズ・アンソール」は骸骨や仮面の絵で有名な画家なのだそうです。ポスターにもなっている結婚式の絵『陰謀』は嘲笑や策略を思わせる不気味な作品。あまり好みではなさそう・・・と思いながら出かけて行きました。

ところが、仮面と骸骨だけではなく、そこに至るまでの風俗画も静物画も風景画もあり、どれも素敵なのです。オレンジ系の明るい赤が魅力の『花と野菜』や、女性の「食」を全面的に描き出すことへの批判から酷評された『牡蠣を食べる女』、印象派のような美しい風景画など、どれも魅力的。なんといろいろなタイプの絵を描く画家なのでしょう・・・。

私が好きだったのは『仮面劇 かすみの効果』や『愛の園』。どちらも仮面をつけた姿の人が舞台にいるという作品で、幻想的で美しい。アンソールの絵は骸骨であっても明るくさわやかで、シニカルな仮面の絵でもユーモラスで透明感がある。どろどろした恐ろしさがないのはなぜでしょう。

アンソールは小さい頃から母親が営むお土産物屋さんの、骸骨や貝殻や仮面を目にして育ってきたのです。お客さまの眼を惹くように美しくレイアウトされた、それらの品物は、昼間は窓からの光を浴びて、夜は街灯に照らされて、日夜、宝もののような姿をアンソールに見せていたのではないでしょうか。アンソールにとっては、恐ろしいものでも不気味なものでもなく、少年の好奇心や夢や未来だったのではないかしら。

こんなにワクワクできる環境で育ったアンソールは、きっと魅力的な人だったのでしょうね。明るく楽しい曲も作っていますし、心豊かな人だったのだと思います。アンソールの人柄は、ルソーの家の前に立つアンソールの写真からも感じられます。窓の向こうにいるルソーの様子に、アンソールへの親しみや慈しみが見える気がするのです。

この展覧会では、アンソールに影響を与えたブリューゲルルーベンスなどの作品も見られます。
多分初めて見た、ペリクレス・パンタジスという画家の『浜辺にて』も、とても好きな絵でした。

この美術館では、ゴッホの『ひまわり』、セザンヌの『りんごとナプキン』、ゴーギャンの『アリスカンの並木路 アルル』も見られます。本当はこちらの常設作品を楽しみにしていたのですが、アンソール展だけで十分でした。

近くの静かなお茶スポットは、小田急百貨店7階の但馬屋珈琲店。紳士服売り場の奥という穴場的な場所で、木調の落ち着くお店です。明るく開放感もありますよ。