ナチス・ドイツに略奪され行方が分からなかった、エゴン・シーレの「ひまわり」が2000年初頭に発見されました。なんとフランスの田舎町の一般住居に無造作に掛けられていたのだそう。このドラマチックな事実をベースに作られた映画です。
アートオークションの映画というと「アートのお値段」を思い出します。キラキラの世界に渦巻くギラギラの思惑が刺激的な映画でしたっけ。
「盗まれたエゴン・シーレ」には、パリのオークションハウスで働く有能なオークショニアのアンドレ、仕事の相棒である元妻、嘘つきの助手や同性愛の女性弁護士、ひまわりをそれとは知らず所有していた夜の工場で働く青年マルタン、元の所有者の遺族などが出てきます。
エゴン・シーレの「ひまわり」があったのはフランス東武、スイス国境近くの工業都市ミュルーズの、マルタンと母親が住む、家主つきで買った家。家主が亡くなったらマルタンに家の所有権が入るというものです。「家主は去年98で亡くなった。私たちにとって長い時間でした」とマルタン母が言っていました(こんな不動産販売システムがあるのですね!)
母親もマルタンも、ずーっと家の壁に存在している絵がエゴン・シーレだとは思いもしなかったので、母親は、「最低でも今日のレートで20億」と聞いてビックリ。マルタンは、盗まれたものなら元の持ち主に返さなきゃと思う、真っ当な、高潔な青年です。
落札されたとき、会場の外に出て、マルタンは泣いていました。
毎日なんとなく眺め愛着をもっていた自分だけの絵が遠いところに行ってしまった。そんなにすごい絵だったんだね、君は、、、みたいな気持ちだったのかしら。
所有権を主張しないマルタンは、元の持ち主であるユダヤ人の富豪の意向で相続人の1人に加えられお金を手にします。
ある日アンドレに、ミュルーズの景色の絵葉書が届きます。母親に家を買い自分は変わらず工場で働いていますというマルタンからのものでした。
マルタンは大金を手にしても自分を見失わない、高潔な純粋な人に描かれています。
この映画では、アンドレをはじめ、どの人も人として相手を認め、感情的になることなく自分の役割を遂行していると感じました。働き方や一緒に仕事をする相手との向き合い方がわかるフランス人のお仕事映画としても興味深いものでした。
美術映画はどれも好きですが、この映画もとてもよかった。
それにしてもウィーン分離派エゴン・シーレのひまわりは、まあ暗い!茶色く枯れているんです。ゴッホのひまわり、クリムトのひまわり、そしてエゴン・シーレのひまわり。比べてみると面白いですね。