三木勝のライブデッサン_Vol.7 ヘルメス胸像を木炭で描く

 今回は、木炭で、ヘルメスの胸像のデッサンをします。

三木先生が「何回見てもよくできた像」とおっしゃるこちらの石膏像は、
紀元前4世紀の有名なアッティカの彫刻家・プラクシテレスの「ヘルメスと幼児ディオニュソスの彫像」という全身像から、切り取ったもの。


ヘラ神殿から発見され、ギリシャを代表する博物館の一つ、オリンピア考古学博物館所蔵の、たいへん美しい像です。

 

ヘルメス胸像の左肩に何か乗っています。それは、ヘルメスに抱かれたディオニュソスの小さな手です。この像は、ヘルメス神が、幼児のディオニュソス神を左手に抱いて、葡萄を取ってあげようしているところなのです。

 

ヘルメスは、ゼウス大神とマイア(人間)の息子です。商業、伝達 泥棒と嘘つきの天才、神々の使者でもある、とても頭の切れる神です。
ゼウスの正妻のヘラ女神は、よそにできたゼウスの子どもを徹底的に排斥しますが、
ヘルメスとその母マイアは、許されていたようです。

ディオニュソスは、ゼウスと、セメレ(人間)の子です。
妊娠中のセメレがヘラに殺されてしまったため、ゼウスがお腹から取り出し、自分の太ももに入れ、生まれたのが、ディオニュソス(母の違う、ヘルメスの弟になります)。
ヘラに殺されないように、ニンフのもとに連れていくように、息子ヘルメスに頼んだのです。

この、葡萄をとってもらうディオニュソスローマ神話ではバッカスといいます。
バッカスといえば、豊穣とブドウ酒と酩酊の神。カラバッジョ、ベラスケスの作品で、おなじみですね。
グイド・レーニは、幼いバッカスが、裸でボトルのままワインを飲む姿を描き、これもまた印象的!
影響力のあるヘルメスに、葡萄をとってもらったことが、バッカスがお酒好きになった要因なのでは?
それとも豊穣とブドウ酒と酩酊の神として生まれ、生まれながらにお酒が好きだったから、葡萄をとってあげたのかしら?

ヘルメスが、小さな弟であるディオニュソスに葡萄をとってあげるシーン、ということを知ると、精悍でイケメンだわ!と眺めていた石膏像に、幼児を慈しむ表情が見えてきます。

 

 

 三木勝のライブデッサン_Vol.7 ヘルメス胸像を木炭で描く

 

さて、
木炭デッサンでは、木炭を、丸筆、平筆、面相筆のように使い分けます。
デスケール、測り棒、重心はかりの3点セットを用意して、最初にスケッチをします。

身体の形を表す構造線、補助線を組み合わせながら形を作っていきます。

三木先生は、石膏像を描くのに、学生時代は、一日2,3時間描いて一週間、18時間くらいかかっていたといいます。
若いころは体力があるので、無駄に描いてしまいがち。
無駄に間違えて、直す時間がなくなれば5,6時間、3時間でも描けるようになるそうです。
「形を間違えないこと」が大事だそうです。

「経験した人にアドバイスを受けて、効率的に勉強することをお勧めします。
方向性が合っていて、学習意欲と根気があれば誰でも上手になります。
難しいものではありません」

 


暗部は紙を痛めつけるように
中部は指を使って
明部は鉛筆デッサンのように
パンは練りゴムのようにして、描く道具として有効に使うことができます。
グレーにも段階があり、パリッとしたグレー、じとっとしたグレーなどがあるので、どのタイプのグレーを作りたいか、によって、パン、ガーゼを使い分ける様子も見どころです。

 

「全体を見ながら、残像にイメージを置いておいて、その残像と照らし合わせて、見比べて描く。脳に残像を記憶させる訓練です」
彫刻家の木炭デッサンを、ライブデッサンで、ぜひ体感してください。

 


石膏デッサンでも、「絵づくり」をして、完成度を上げたいもの。
平板にならないように前後関係をつけて絵づくりしましょう。

 

大事なのは「デッサンをしているときの、自分の張りのある気持ちや感動を、絵に伝える」ということ。

 

やりすぎて失敗することもありますが、経験してみないと止めどきもわかりません。

木炭の後に鉛筆デッサンをしてみると、また発見があるでしょう。


湘南美術アカデミー