モダングラフィック技法講座 第一回

 井手章先生の、モダングラフィック技法講座、第一回目は「スパッタリング技法」です。

スパッタリングとは、spatter、水などが跳ねかかる、飛び散るという意味です。

That bicycle spattered me with muddy water。
その自転車は私に泥水をはねかけた

というふうなイメージ。

井手先生の作品を見ていきましょう。
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塗料の粒を飛ばして着色する技法の1つで、筆や歯ブラシ、金網などを利用します。
型紙を作り、順番にスパッタリングしていくと、美しいグラデーションができます。
自分でデッサン、デザインするだけでなく、既存のモチーフを使用し、オリジナリティの高い作品が作れることも魅力的だと思います。

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歯ブラシを指ではじいて絵の具の粒を飛ばす方法や、金網を筆や歯ブラシでこすって絵の具を飛ばす方法を習いました。

専用の金網だけでなく、100均の金網なども使います。

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絵の具の濃度によって、ぼてっと垂れてしまうことがありますが、
だんだんコツがつかめてきます。

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短い時間でオリジナル作品を仕上げた生徒さん。
型紙を重ねながら、スパッタリングした絵の具の粒子がグラデーションを作り、立体的に見えます。
幻想的なテーマが、この技法の持つ魅力を引き出していると思いました。


イラストやデザインの勉強にも役立つモダングラフィック講座で、自分らしい作品を作ってみませんか?

湘南美術アカデミー

新規開講 モダングラフィック技法講座

 1月16日より「モダングラフィック技法講座」という、新しいクラスが始まります。
イラストレーターになりたい方、デザインに興味のある方におすすめのクラスです。

水で洗い流すウォッシング、引っ掻いて描くスクラッチボード、霧状の絵の具を振りかけるスパッタリング、
印刷物を紙に転写するリプリントなどなど、様々な技法を学び、グラフィック作品を制作します。

パソコンでは出せない味わいは、思いがけない自身の個性、強みを引き出してくれるはず。
題材に写真やイラストを使うことができるので、描写力がなくても、モダンな雰囲気の作品が作れるのも魅力です。
絵を描く、というより工芸的な作業でもあるので、モノづくりを楽しみたい方にもおすすめです。
井手先生の色彩理論と技法を学んで、古くて新しいモダングラフィックのイラスト作品を作ってみませんか?


クラッチボードの体験講座がありました。

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参考作品

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井手先生の作品

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生徒さんの作品 
スマホで見つけた「心臓」のイラストを参考に、スクラッチボード作品にしたものです。

第一回目は、1月16日:17時からです。
ほかの美術教室にはない、スペシャルな講座です。

湘南美術アカデミー

『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』

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『知覚力を磨く 絵画を観察するように世界を見る技法』(神田房江・法人教育コンサルタント、美術史学者)/ダイヤモンド社


「知覚力」とは、目の前の情報を受け入れ、独自の解釈を加えるプロセスのこと。
知覚は知的生産の最上流にあるもので、思考以前の力のこと。

どこに目を向けて何を感じるのか、感じとった事実をどう解釈するのか、すべては「知覚」で決まるのだそう。
ですから、優秀な論理的思考やコミュニケーション力があっても
「知覚力」が乏しければ、それらを生かすことができない可能性があるのだそうです。

レオナルド・ダ・ヴィンチは、史上最高の画家であり、人類史上最も多彩な人物です。
ダ・ヴィンチの『手稿』には、知の巨人と言われるダ・ヴィンチが、
アートからサイエンスまでの幅広い分野に渡り、観たこと考えたことが素描やドローイングを交えて細かくメモされています。


『手稿』から、
ダ・ヴィンチは、知覚力を磨くために、
知識を増やす、他者の知覚を取り入れる、知覚の根拠を問う、見る/観る方法を変える
ことを実践していたことがわかります。

ダ・ヴィンチの見る方法は観察です。
ダ・ヴィンチの『手稿』からはダ・ヴィンチの視覚重視の痕跡が見えてきます。

「なぜある星は、ほかの星よりもキラキラしているのだろうか」

「なぜ眠っているときに見る夢の方が、起きて見る空想よりも鮮明なのだろうか」

対象を集中的に観察することで見えないものを観る力が高まってくるそうです。
脳で観る機能をマインドアイ(アイデアを観る眼)と呼び、そこで観られる像をメンタルイメージと呼ぶそうで、
観察は、機能を高めて知的生産力に繋げてくれるのだそうです。

様々な分野で優れた芸術作品を残し、ダ・ヴィンチと同じくルネサンス期の万能人とされるミケランジェロはこう述べています。

羅針盤は手のなかにではなく、眼のなかに持ち続けるべきだ。
実行するのは手だが、判断するのは目なのだから」

湘南美術アカデミーの代表、彫刻家の三木勝先生も、デッサンの授業のときに、
よく、「手で描くのではなく目と頭で描く」と述べていますね。


知覚への最大の影響力を持っているのは視覚です。
本書では絵画を観察することで、眼と脳の能力を引き出すことで知覚力を磨くことを
「絵画観察トレーニング」として、紹介しています。

湘南美術アカデミーでも、おなじみの絵画作品などがトレーニングの例に出ていますよ。
観察力を試してみましょう。

なぜ絵画の観察が有効かというと、

・バイアスが介在しづらい(見慣れない絵を観るときには視覚的刺激を頼るしかない。ありのままを観察する感覚が掴みやすくなる。
・フレームで区切られている
・現実世界を観察するのは難しい。
・全体を見渡す力がつく

ビジネスにせよ人生にせよ、全体像ではなく全体図を観ることで、作品の特性や価値が浮かび上がってくる。
絵画観察を通して眼のつけどころを磨くことで知覚力が高まると知的生産のプロセスは加速するのです。
観ることによって知覚力を高めてきた人物の共通点は絵画を観るように世界を観ていること。

ダ・ヴィンチは、専門家から得られない知識は書物で補い、アート、天文学、医学人体解剖学、地質学、植物学、光学などなど、
知覚の領域を広げていました。
そして、ダ・ヴィンチの『手稿』を落札したビル・ゲイツやジェフ・ベソスなど、
世界の一流経営者は多様なジャンルの本をたくさん読んでいます。
ビルゲイツは「学習すればするほど知識をあてはめられるフレームが広がる」と知覚力向上を狙いながら本を読んでいたそう。
そしてノーベル賞受賞者の9割以上がアート愛好者ということです。

先の見えない時代と言われていたところ、さらにコロナに覆われて、
これからこの世界はどうなっていくのでしょうか?
混迷の時代において、思考の前提となる「知覚」を磨き、思考力を発揮することは、豊かに生きることにつながるでしょう。

ビジネス書ですが、知覚を磨くための名画の鑑賞方法というのは、美術ファンにとっても興味深いのではないでしょうか。

湘南美術アカデミー

三木勝作 アマビエを販売いたします。

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疫病退散の願いを込めて、
湘南美術アカデミー代表の彫刻家・三木勝が
「アマビエ」を作成しております。


流行語大賞の候補にも挙がった「アマビエ」とは、江戸時代の終わりごろに、肥後(熊本県)の海中から出現し、
「疫病が流行するので、私の姿を描いた絵を人々に見せよ」と告げたといわれる妖怪です。

釉薬をかけて2度焼きした、陶器のアマビエgirlsは、6姉妹になる予定。
湘南生まれのgirlsの趣味はサーフィンで、ホタテ貝のボードに乗っています。

12月23日、24日に
鎌倉の小町通りの入口にある
アイザ鎌倉の中庭で、1500円で、販売いたします。
もちろん彫刻家のサインとエディションナンバーも入っています。

湘南美術アカデミーの展覧会、絵画や彫刻などの作品即売会も開催いたしますので、
ぜひいらしてくださいね。

湘南美術アカデミー

現代美術の巨匠・リヒターの「ある画家の数奇な運命」を見てきました。

『ある画家の数奇な運命』を見てきました。
ゲルハルト・リヒターの人生をモデルにしたフィクションです。

現代美術の巨匠と言われるリヒター。
最近では、2020年10月8日にポーラ美術館が、香港のサザビーズでリヒターの作品を約29億円で落札(アジアのオークションに出品された西洋作家の中で最高額)
というニュースもありました。

この映画、実は見ることを迷いました。
美術、恋愛の要素があるといえど、戦争がキーとなる映画ですし、3時間を超える大作ですし、しかもドイツ語だし、、、と、その重厚さにひるんだのです。
けれど、リヒターへの興味と現代美術について知りたいという思いが勝ちました。

そして、これまで美術に関連する映画をたくさん見てきましたが、こちらが
好きな映画ナンバー1となりました

 

リヒターがモデルとなったクルトに大きな影響を与えたのは、叔母との関係や、ナチ政権下におけるドイツのあり方。
恐ろしく、とても悲しいシーンもありますが、それを払拭し、あまりあるほどの爽やかさが得られたのは、あらゆることにおいて、幼くも見えるほどにおだやかで素直なクルトによるものでしょう。
妻となるエリーも同じような素直さを放つ女性。
登場人物それぞれが、国家の状況に翻弄されながらも、その人の本質を失っていないことが、この映画の魅力を支えるものだと思いました。


戦争や叔母から受けた影響などの原体験を抱えながら、静かにたんたんと悩み、描き、
ついに自分だけの表現方法を見つけるクルト。その姿は、私のイメージする現代美術のアーティストとは違っていました。


「芸術には主体性が必要だ。工芸とは違う」
という、デュッセルドルフ美術アカデミーで、ヨーゼフ・ボイス(ドイツの現代美術家)をイメージした教授の言葉がありました。

芸術と工芸は同じラインにあるように感じることもあるし、
まったく異なるものだと思うこともあり、その答えがわかったことは、

この映画を見てよかった、と思ったことの一つでした。


この映画では、1937年に、ナチス政権企画で行われた「退廃芸術展」に展示され、破壊されてしまった、カンディンスキーモンドリアンの作品などが再現されています。退廃芸術展のシーンでは、その当時の展覧会の様子、時代の空気を感じることができます。

ドイツの前衛芸術家たちは、ヒトラーにより、国家の敵、ドイツ文化に対する脅威であると烙印を押されたのです。

壊されてしまった作品を、写真などの資料から作るという、お金と時間がとてもかかる作業だったということが、「美術手帖」の、監督へのインタビューにありました。

『すべてのアートというのは政治的・社会的・歴史的な環境のなかで生まれているので、伝統の継続であるわけです。
アートが向かっていく方向というのはそれまでの歴史や文化があってのことなので、そこには正当性を持たせたかったということです。』

こうしたインタビューから、この映画の魅力はすべてわかります。

フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督は『善き人のためのソナタ』で知られる方ということです。

きっと素晴らしい作品でしょう。ぜひ見たいと思いました。


クルトがヨーゼフ・ボイスに学んだデュッセルドルフ美術アカデミーやドレスデン美術大学という美術学校のシーンからは、ナチ政権下のドイツの美術界の様子も知ることもできました。瑞々しくいきいきと学ぶ美大生の姿も見どころです。

ドレスデンの街並みや、映像、音楽なども素晴らしい、魅力がいっぱいの映画です。

原題は「Werk ohne Autor」、作者のない作品という意味になります。
原題の方が、この映画の本質がわかる気がします。

ぜひご覧くださいね。

 

湘南美術アカデミー

鎌倉 ジャックと豆の木 大人のアトリエ展

鎌倉のジャックと豆の木で、
湘南美術アカデミーの蝦名協子先生と生徒さんの作品展「第9回大人のアトリエ展」が開催されています。


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蝦名協子先生(国画会会員)の作品


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生徒さんたちのコラージュ作品。
自粛中にそれぞれご自宅で制作されたものです。一枚ずつ見ても、大きな作品として見ても、ワクワクする楽しさと発見があります。

マチス風と、ピカソ ブラック風
見れば見るほど楽しくなってきます。

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一枚の作品に込められた、限りなく自由な発想!
見れば見るほど楽しくハッピーな気分になってきます。

楽しい絵画と美味しいコーヒーのひとときは、気持ちを明るく前向きにしてくれます。

22日までです。ぜひお立ち寄りくださいね。

湘南美術アカデミー

サントリー美術館 「日本美術の裏の裏」11月29日までです。

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サントリー美術館で「日本美術の裏の裏」を見てきました。
なんとなく見ていた作品も、新たな見方を知ることで、いきいきと心に入ってくるものですね。

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丸山応挙の青楓瀑布図
この絵を前にした時、どんな気持ちになりますか?
写実的だ、さわやかな色彩、など何がどう描かれているかに注目することが多いかもしれませんが、この絵をどこに飾ると素敵か、そこがどのような空間になるのかと想像を広げるのも、古来培われてきた美術鑑賞のひとつなのだそうです。

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春夏花鳥図屏風 狩野永納 江戸時代 17世紀

春と夏という異なる季節で構成されています。季節を超えた理想郷 。屏風は部屋に飾るだけで、異空間を出現させることができる装置なのです。


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武蔵野図屏風
この屏風を立てれば部屋にはたちまち薄が生い茂ります。

絵を置くだけで、その空間は変わり、心が動きますが、
屏風は、屏風に描かれた世界に、心も体も連れて行ってくれるよう・・・。
日本絵画がつくりだす元祖「仮想現実」の世界を、昔の人は楽しんでいたのでしょう。

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室町時代 16世紀に描かれた「かるかや」は、上手・下手を超越した、描き手の心が生き生きと伝わってくる作品です。
リアリズムと対極にあるファンタジーの世界を楽しむ心が、こうした作品を守ってきたのです。


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色絵桜楓文透鉢 仁阿弥道八 江戸時代 19世紀

桜と楓の取り合わせは『古今和歌集』の序で、奈良県吉野山の桜と龍田川の紅葉が対で称賛されたことに由来します。
やがて桜と楓(紅葉)は、それだけでも吉野と龍田を意味するようになったそうです。桜を「雲」、紅葉が「錦」に見立てられたことから、桜と楓(紅葉)の雲錦模様といわれています。対比されつつも一つの鉢に収まって、これも美しい仮想の世界でしょうか。永遠にめぐる季節を表しているそうです。


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信楽焼のコレクションです。
多方向から見て、自分の好きな景色を探してみましょう。
鳥は仁清の色絵鶴香合です。

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鼠草紙絵巻 室町~桃山時代 16世紀 

人間との結婚を企てるネズミのお話。500年も前から、ネズミのキャラクターがいたなんて驚きです。

空間をつくる、小をめでる、心でえがく、景色をさがす、和歌でわかる、風景に入る 
この6章から日本美術の名品を紹介しつつ、鑑賞法を教えてくれる、たいへん貴重な、楽しい展覧会でした。

湘南美術アカデミー