「シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢」

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恵比寿ガーデンシネマで「シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢」
https://cheval-movie.com/
を見てきました。

フランス南部の片田舎、ドローム県オートリーヴにある「パレ・イデアル」(シュヴァルの理想宮)。
なんとも奇想天外なデザインのこの宮殿、
郵便局員のシュヴァルが娘のために、たった一人で33年もかけて造り上げたものなのです。

完成したのは1912年。
シュヴァルの没後に、シュールレアリスムの詩人アンドレ・ブルトンが訪れて称賛、
1937年にはピカソが訪れ、シュヴァル(フランス語で馬の意味)にちなんで馬の絵を描いたというエピソードも残っているそうです。
そう、実話なのです!

田舎の山道を徒歩で郵便配達する寡黙なシュヴァルさん。ある日変わった形の石につまずいたことをきっかけに、
石を集めて、娘のために理想の宮殿を造り始めます。

建築の知識はまったくなかったそうですが、パン職人の経歴があったこと、
息子が、オシャレなスーツの仕立て屋さんになっていることから、
シュヴァルさんに、アーティスティックなセンスと器用さもあったことが想像されます。
郵便局長から、宛先不明の絵ハガキを、無表情で受け取るシーンがありましたが、
こうした海外の絵ハガキなどで、美しいものや、未知の国へ思いを馳せたりしていたのでしょうか。

人付き合いが苦手で無口なシュヴァルさんは、家族を次々と失うという悲しい出来事に見舞われます。
重く悲しい場面もたびたびありますが、
家族のおおらかな愛情に、シュヴァルさんがほんのりチャーミングな顔を見せてくれるのが嬉しく、ほっとさせられます。
二番目の妻は、どっしりとした素朴な雰囲気で、黒田清輝の<読書>のモデルを思わせる女優さんだと思いました。言葉は少ないのですが、感情を全身から滲み出させる素晴らしい女優!
そういえば、あのモデルさんもパリの田舎の農家の娘さんでしたっけ。
シュヴァル役もまた素晴らしく、目で演技をするという言葉を聞きますが、目というより瞳の動きや虹彩で、すべての感情を伝えていると感じました。

この宮殿は、ただただ娘が遊ぶためのお城です。かくれんぼに最適!
ゴロゴロした石を積んだり、拾った石を張り付けたり、思いつくままに造っているのかと思っていたら、
「もうすぐ終わりだ」というようなセリフがあり、ちょっと驚きました。
そういえば作り始めたときに、「ずっと前から考えていた」と言っていたので、
シュヴァルさんの頭の中には、このような完成形があったのかもしれません。
33年、完成形を目指して作業を続けていたのですね。

娘アリスのために造った宮殿は、息子のアイデアにより世界的に知られるようになりました。
ナイーヴ・アートのひとつとされ、国の重要文化財にもなっています。

アジアのお寺やアールヌーヴォーの雰囲気もあるような、なにものにも形容できない宮殿の魅力とシュヴァルさんと家族の愛情、
役者たちそれぞれの表情と美しい映像も楽しめる、素晴らしい映画です。

2018年製作/105分/G/フランス
原題:L'Incroyable histoire du Facteur Cheval
配給:KADOKAWA



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「横浜美術館開館30周年記念オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」


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2020年01月13日

横浜美術館で開催中の
横浜美術館開館30周年記念 オランジュリー美術館コレクション ルノワールとパリに恋した12人の画家たち」展に行って来ました。

オランジェリー美術館の所蔵する146点の内、ジャン・ヴァルテル&ポール・ギヨームのコレクション70点が来日しています。

アルフレッド・シスレー
クロード・モネ
オーギュスト・ルノワール
ポール・セザンヌ
アンリ・ルソー
アンリ・マティス
パブロ・ピカソ
アメデオ・モディリアーニ
キース・ヴァン・ドンゲン
アンドレ・ドラン
マリー・ローランサン
モーリス・ユトリロ
シャイム・スーティン

印象派とエコール・ド・パリの名品揃い!

アンドレ・ドラン「アルルカンとピエロ」も来ていますよ!
ドラン=フォービズムの画家だと思っていましたが、
古典回帰の時期もあったそうで、これはこの時期の作品だそうです。

ルソーの「婚礼」は、花嫁が空中に浮いているようだったり、犬の大きさと
形が不思議だったり。画面の隅々まで楽しめるのがルソーだと思います。
「ジュニエ爺さんの二輪馬車」も来ています。こちらには犬が二匹。
犬好きな私は、ルソーの素朴な犬が大好きで、いくら見ても飽きません。
どちらにもルソー自身が描かれているは、なぜかしら?

ドランとスーティンはあまり見たことがなかったのですが、今回はたくさん見ることができました。

フランス近代絵画が花開いた19世紀末から20世紀前半の名品に、うっとりしに出かけましょう。

 

 

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あの美しい人の正体は? 美しい肖像画に秘められたドラマを解き明かす | ダ・ヴィンチニュース

のレビューを書い際に少しふれた、マリー・ローランサン<シャネル>(1923年)も、今回の展覧会で見ることができました!
これはシャネルの依頼で描いた肖像画です。

美貌と才能を持ち、恋も財も名声も手に入れたシャネルの絶頂期の肖像画にしては、ずいぶん寂しげな絵ではないでしょうか。
しかも女優並みの美貌を持つシャネルとは、まったく似ていません(シャネル自身も「似ていない」と送り返したのです)。

ローランサンといえば、砂糖菓子のような柔らかく明るい女性像のイメージですが、これは寒色の画面で寒々しい。
首から体に巻き付いた黒蛇のようなストール、翼を閉じて飛ぶ鳥、転がっているように描かれた鹿のような動物、精気を感じさせない犬、裸の胸はのっぺり塗られています。
シャネルが嫌いだったの?嫉妬?と、悪意すら感じてしまう絵ですが、女性画家ならでは同性への鋭い観察力で、シャネルの内面の孤独や不安といったものを描き出したということなのでしょうか?

2人は同じ1883年生まれ。この絵が描かれた1923年は、どちらも絶頂期の40歳。
肖像画家としてパリ社交界に君臨していたローランサン、モード界の女王として「シャネル№5」を発表したばかりのシャネル。
20世紀初頭のフランスは男性社会、階級社会であり、女性の自立は現代とは比べ物にならないほど困難でした。
そんな時代に、己の才能一つで一世を風靡したのがこの二人なのです。

フランス中南部の田舎・オーヴェルニュの極貧の家に生まれ孤児院、修道院で暮らし、ムーランの洋裁店に勤め、自身の道を切り拓いた野心家のシャネル。
ローランサンも未婚の母に育てられ恵まれた生まれとはいえなかったそうです。
絵を送り返されたときに「しょせんはオーヴェルニュの百姓娘」とシャネルを自分よりずっと下位とみなす発言をしたことからも、この絵から、ローランサンのコンプレックスが窺えるような気がします。

ぜひ実物をご覧になってくださいね。

 

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横浜美術館のコレクションから 

ラウシェン・バーグ


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 ジャスパー・ジョーンズ


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 マティス


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 ジャン・フォートリエ


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 白髪一雄


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ジャン・デビュッフェ

 

アンフォルメル、ネオダダなど20世紀後半の芸術も楽しめます。

 

そごう美術館「ミュシャ展」

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グラフィックデザインはもちろん魅力的ですが、素描の素晴らしさに感動しました。

とくに気に入った素描は、光の奥行きに引き込まれるものでした。
ラトゥールの「大工の聖ヨセフ」を思い出しました。

素描だからこそ、さらにあたたかく穏やかに、作品の隅々にまで、光が届いているのだと感じます。

「永遠の門 ゴッホの見た未来」


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 画家であるジュリアン・シュナーベルが監督のゴッホの映画を見ました。
ゴッホ役のウィレム・デフォーが、よく見るゴッホの自画像にそっくり!

ゴッホがパリでゴーギャンと出会い、南仏・アルルへと向かうところから物語は始まり、亡くなるまでの半生を描いたものです。


ゴッホはピストルで自殺したものと思っていたのですが、
少年たちに襲われて撃たれたという内容で驚きました。
近年、そのような説もあるのだとか。

テオやテオの奥さんとの、あたたかな交流などは描かれません。
ゴッホの姿や背景から、ゴッホの苦しい心情が伝わってきます。
デフォーだということを忘れそう!

作中にはゴッホが描いた作品が多数登場しますが、これらはシュナーベルと、シュナーベルに絵画を教わったデフォーらによって描かれたものだそう。
シュナーベルのこうした考えによって、デフォーは「ゴッホ」を取り込んでいったのではないかと思いました。
絵を描くシーンも見どころです。


パリのレストランで、ゴッホゴーギャンロートレックなど何人かの印象派の画家で展覧会を開いているシーンがありました。
モネやルノワールら、大並木通り(グラン・ブールヴァール)の画廊に展示される大家と比べて、小並木通り(プティ・ブールヴァール)の画家と称していたそう。
ほかの画家のように紳士的な服装でもなく、人との交流も得意でないゴッホは、絵画について皆で語り合う場面で浮いています。
当時の画家たちの様子を知ることができる興味深いシーンでした。

ずっと作品が売れず貧しかったゴッホアンデパンダン展での評判も耳に届かなかったのが悲しい。
ゴーギャン、ガシェ医師、聖職者との触れ合いは、ゴッホの心に、どれだけあたたかな灯りをともしたことでしょうか。

 

ゴッホの心の中を、映像で描いた映画なのです。
原題は『At Eternity's Gate』のみ。

ピストル自殺だと思われていた理由は、
ゴッホが少年たちに撃たれたことを黙っていたからなのです。黙っていたゴッホの心の内は?

そして、「ゴッホの見た未来」とは、何だったのでしょうか。
私には答えはわかりませんでしたが、黄色い画面が目に焼きついています。

 

湘南美術アカデミー 

 

 

 

東京都美術館「コートールド美術館展」12月15日までです。


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東京都美術館で開催中の「コートールド美術館展」に行ってきました。

実業家サミュエル・コートールドが収集したコレクションです。

セザンヌを見出し、いち早く収集したコートールドならではの、セザンヌのコレクションは圧巻です。


話題になっている、マネの「フォリー=ベルジェールのバー」は、仕事で勉強していたのでその復習として見てきました。

セザンヌ、ホイッスラー、ゴッホシスレー、モネ、ルノワールドガ、マネ、
スーラ、ボナール、ロートレックモディリアーニ、ルソー、スーティンなども、たっぷり楽しめます。

ポール・セザンヌ「曲がり道」、クロード・モネ「花瓶」、アンリ・ルソー「税関」など、新たな好きな作品と出会えて、なんだか新鮮な気持ちになれました。

主要作品には、「見どころ」が、大きく分かりやすく紹介されていますので、知識がなくても大丈夫。これだけの作品がイギリスに行かずとも、上野で見られるのですから、ぜひ行かなくては!
12月15日までです。

 

 湘南美術アカデミー

リヒテンシュタイン公爵家の至宝展

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Bunkamuraザ・ミュージアムで「リヒテンシュタイン公爵家の至宝展」を見てきました。

リヒテンシュタイン候国歴代の当主が愛した素晴らしいコレクションの展覧会です。

リヒテンシュタイン候国って??
スイスとオーストリアにはさまれた国です。
人口3万5000人ほど。
アルプスの山々に囲まれライン川の流れる小さな国は、世界で唯一公爵家の家名を国名とするユニークな国家なのだそう。

美しい美術品を集めることにこそお金を使うべきという家訓のもと、集められた至宝が並びます。

16世紀前半ドイツで活躍した北方ルネサンスの画家クラーナハ父、ルーベンス、ヤン・ブリューゲル父、グイド・レーニなどの他、金属の装飾を施した陶磁器など、美しく豊かな国のコレクションは、鑑賞者の心も豊かに、幸せな気持ちにさせてくれます。